この内容は少し長い文章となっておりますが、スモールビジネスで起業をお考えでレトルト食品を検討している方は是非ご一読ください。
ピクルスアカデミーではレトルト食品は講座の対象外にしております。
別の言葉で言い換えれば、この講座ではレトルト食品には事業初期段階では手を出させない様にしています。
これは当講座のコンセプトである「ビジネスはスモールスタートで始めるべき」に反するからです。
よくお問い合わせで「レトルト食品は作れますか?」という質問を頂くのですが、大前提としてレトルト食品を正確に理解していない方が殆どなのでここで簡単にご説明致します。
レトルト食品(商業的無菌)とは
レトルト(retort)とは元々は「加圧過熱殺菌をする釜」の事で、現代では「加圧過熱殺菌をした食品」も同意義で使われています。
この加圧加熱殺菌というのは専用のパウチや缶詰などで食品を密封したものを120℃で4分以上の高温・高圧で殺菌することを指します。
この120℃で4分という指標は「ボツリヌス菌」が死滅する温度なのです。
加工食品を作る際に食品衛生法で定められているpH値やAw値はこの「ボツリヌス菌」の生育限界を基準に定められているのです。
ボツリヌス菌は地球上で最も強い毒素と言われる「ボツリヌストキシンA」を産生し、 1gで1,000万人以上の命を奪うと言われています。
つまり、120℃4分の加圧加熱殺菌をするとボツリヌス菌を含むその他の細菌もほぼ死滅し理論上腐敗が起こらないので、超長期間の賞味期限が設定出来るのです。
このようにレトルト殺菌された商品は「商業的無菌」と言い、食品に存在する微生物や芽胞(特に病原性や腐敗を引き起こすもの)を、食品が常温でも安全性を保ちながら保存できるレベルまで減少させた状態を指します。
スーパーなどに行ってカレーなどのレトルト食品の裏側を見てください。
食品衛生法でレトルト食品には殺菌方法「気密性容器に密封し、加圧加熱殺菌」という表記が義務づけられています。
つまりその商品はレトルトでないと作れないという意味なのです。
レトルト食品にしか出来ないこと
ではどういった食品にこのレトルト殺菌が必要なのでしょうか?
食品衛生法によると「pH4.6以上で、且つAw0.94を超えるもの」と書かれています。
意味がわからないですよね。
少し噛み砕いて表現するなら、「梅干しほど酸っぱくもなく、ジャムほど甘くなく、味噌ほど塩辛くない程よい味付けのクセのない食品」です。
つまり逆説的に言うと、レトルト食品以外の長期間保存が効く食品は、めちゃくちゃ酸っぱくしたり、めちゃくちゃ甘くしたり、めちゃくちゃ塩辛くして保存性を高めているのです。
砂糖、塩、お酢というのは古来からある天然の保存料です。
それらの効能を利用する事で先人たちはピクルスや塩漬けジャムなどの保存食を作ってきました。
先に伝えた通りボツリヌス菌は熱では120℃4分でしか死滅できませんが、糖度が50%の環境では増殖および毒素産生が完全に抑制されます。
pHだと4.6未満、塩分だと10%以上、Awだと0.93以下でもボツリヌス菌は抑制されます。
ただし、この効果を最大限に活かすために加熱殺菌が必須なのです。
天然の保存料は細菌の抑制はできますが、死滅できるのは加熱だけです。
※次亜塩素酸、放射線など科学的処理は除いています
これらの天然の保存料の効果を組み合わせる事で、加熱温度を120℃まで上げる必要がなくなるのです。
つまりレトルト殺菌を行なわずともお湯の煮沸殺菌だけで対応出来るのです。
極論ですが、食品衛生法の加熱殺菌の基準値は「天然の保存料の濃度:加熱温度+加熱時間」の組み合わせで構成されています。
講座内容「pH、Aw」の項目でお伝えした様に、この様な指標をもとに加熱殺菌時間を決定しているのです。
初級編では簡単なpHに関する知識を、上級編では加工品製造に必要なpH、Aw、糖度、塩分などを学んで頂きます。初級編で習うピクルスは主にお酢の力でpHを調整し、強い酸度のもとで食品を長期保存を可能にしています。 POINT 水素イオン濃度/pH酸の強さを示す指標で0〜14の数値で表されます。数値...
つまり「pH4.6以上で、且つAw0.94を超えるもの」というのは、極端な甘さ、塩辛さ、酸っぱさを持たない普通の味付けの食品の事です。
そういった食品を長期間「常温保存」する場合にレトルト殺菌が必要なのです。
あなたが作りたい商品は本当にレトルトじゃないとダメなんですか?
あなたが作った普通の食品が保存料など使わずレトルト殺菌をするだけで何年も腐らず保存ができるなんて夢の様な話じゃないですか?
そうです、夢の様なことを実現させてしまう機械なので非常に高額なのです。
一番有名なpanasonicの達人釜という業務用のレトルト機があります。
値段は480万円です。
これがピクルスアカデミーがレトルト商品を勧めない理由です。
この資金があったら店舗も加工場も2つくらい余裕で作れます。
加工食品を製造する場合、必ず必要になってくるのが加工場です。当然ですが、自宅の台所で作った商品は販売する事が出来ません。しかし、加工場と聞くととても大きなしっかりした施設を思い浮かべがちですが、それは違います。加工場として必要な条件さえ満たしておけば、自宅の一部やコンテナを改装するだけでも加工場と...
レトルト食品を作りたいと考えている方、今一度よく考えてみてください。
本当にレトルト食品じゃないとダメなんですか?
レトルト食品を作ったら絶対売れるんですか?
今作れる商品を作って市場調査をしましたか?
食品衛生法では「pH4.6以上で、かつ、Aw0.94を超えるもの」は120℃で4分の加熱殺菌が義務付けられていますが、それは「常温流通」させる場合のみって知っていますか?
10℃以下で流通させる場合はお湯の煮沸殺菌だけで作れるの知ってますか?
上級編の商品は全て家庭用調理器具だけで作れるの知ってましたか?
上級編講座とは 上級編講座は初級編講座修了者のみ受講可能の講座です。初級編修了直後に受講も可能です。上級編講座では初級編で学んだ内容を更に深掘りし、水分活性、水素イオン濃度、糖度、塩分濃度、粘度などの基礎を学び、食品衛生法やJAS規格等で定められた規格基準と照らし合わせながらご自身で加工品が製造で...
ピクルスアカデミーの最大の特徴が、商品を作るときに一般家庭の調理器具しか使わないという事です。つまり業務用の特別な機械が一切必要ないのです。なので調理器具を揃える為の初期費用もほとんどかからず、ほぼ全てがホームセンターで調達できるものです。弊社が起業当初にセブン&アイや伊藤忠商事などに納品...
この講座は小規模事業者を対象にしているので、初期段階からのレトルト導入を勧めておりませんが、資金が潤沢にあるのであれば全く問題ありません。
ただご自身の理想が先行するあまり周りが見えなくなり、他の選択肢を探ろうともせず「レトルトじゃないとダメなんです」と必死に訴えてくる方が非常に多いのでこの様にいつもお伝えしております。
レトルト食品を否定する意図は全くございません。
ただ、資金も潤沢にない状態でこれから起業を目指す方にはレトルト以外でもやれることは沢山ある事をまずは知って頂きたいのです。
まずは自分で作れる範囲の加工品を作り、事業が軌道にのったらレトルトを導入しても遅くは無いのではないでしょうか?
※レンタルでレトルト機を貸してくれる業者様もございますのでどうしても作りたい方は検索してみて下さい